第5部 ハルピン浮浪(3)

2006年11月19日 21:12


(写真は『日中戦争の悲劇―写真で見綴る中国からの証言―』柳原書店)


 正月余話

 昭和21年の正月は新と旧の2回迎えた。
 中国人は旧正月を盛大に祝うのが慣習だが、この鉄工所では日本人を雇っていたからか新正月も休みとなり餃子(ぎょうざ)で祝った。
 大みそかになると、鉄工所のほとんどの中国人が餃子づくりを手伝った。
 中国人にとって正月の餃子は日本の雑煮(ぞうに)にあたる。
 大量につくられた餃子は、日本のうどん屋が玉うどんを入れる縁の浅い箱板のようなものに並べられ、入り口の前に積もった雪の中に何枚も重ねてしまい込まれていった。
 屋外に積もった雪が冷蔵庫代わりだ。
 必要な時にそのつど雪の中から取り出すのである。
(右は『写真集 ああ北満 北小路 健編』図書刊行会)

大みそかに、ぼくは鉄工所の若い中国人や満鉄の人たちに連れられて街の銭湯に行った。
 8月半ばに逃避行を始めて以来、4カ月半ぶりの積もりに積もったアカを存分に落とした。
 その帰り道だった。
 街なかで映画のポスターが目に映った。
 ぼくは、このポスターの画像に愕然(がくざん)とし、しばらく足が止まった。
 顔面に幅広い包帯を巻いた日本兵が要塞のような構築物の前で両手を挙げている悲惨な姿が大きく画かれていた。(左は『別冊1億人の昭和史 日本植民地[2]満洲』毎日新聞社)
敗戦後もぼくの周りにいたのは、無傷の関東軍兵士しかいなかった。
対ソ連の最前線の状況をまったく知らなかったが、日本軍の兵士が両手を挙げ捕虜になる姿は大きなショックだった。
 ぼくの心中では、これは単なる中国人向けの宣伝映画なのだ、こんな日本軍兵士がいるわけはないと、どこかで拒絶していた。
   鉄工所にはジャングイと共同経営者だという現場の責任者である中国人がいた。
どういう話のいきさつからか、この男と母が盛んに口論していた。
 中国の山東省から満洲に流れてきたというこの中国人が、日本軍の爆撃機による空襲で多くの中国の民間人が死んだというのだ。(左の写真は『満洲の記録 満映フィルムに映された満洲』のソ連軍フィルム?日本兵の降伏より 集英社発行)
 それに母は反発し、日本軍が中国の民間人を爆撃で殺すようなことは絶対にしないと言い張っていた。
 一方の中国人は、自分が実際にこの目で見てきたことでだし、自分自身が実際にそのような危険な目にあったのだと口角泡を飛ばし母に認めさせようと譲らなかった。、
 ところが、こちらは頑迷な母である。
 あくまでも「そんなことはない絶対ない」と認めようとしないのだから口論は果てしなかった。


重慶爆撃に出動した陸軍の九七式重は 画期的な近代機で 操縦性とエンジンへの信頼度でパイロットに好評だった。(昭和13年12月 漢口で)


 中国の屋根・四川の大山岳地帯を超え 重慶爆撃に向かう海軍の中攻機隊。
(写真と説明文は『1億人の昭和史「2」二・二六事件と日中戦争』毎日新聞社)

 [重慶爆撃]この新首都に対する日本海軍の爆撃は早くも昭和13年2月に始まり、以後、天候の許すかぎり連日のように繰り返された。
 陸軍機も加わったが、主としてこの役を受け持ったのは海軍の“中攻隊”。(中攻=三菱九六式双発中型陸上攻撃機)
 重慶のほか成都、四川などにも翼をのばし、のち昭和16年7月には、完成したばかりの一式陸攻も参加。日本空軍の奥地爆撃は、前後4年に及んだ。
 [世界最初の渡洋爆撃] 昭和12年8月 台湾の台北、長崎県の大村の基地に待機していた海軍航空隊は、14日 おりからの悪天候をついて上海を爆撃、ついで15日には南京を襲った。(渡洋爆撃= 外洋(東シナ海)を超えての飛行だったので、一般に“渡洋爆撃”といわれた。(『1億人の昭和史「2」二・二六事件と日中戦争』毎日新聞社)


 まだそのころのぼくは、連日、新聞の一面を飾る“渡洋爆撃”とか“重慶爆撃”といった文字は読めなかったが、これらのニュースを耳にして無邪気に喝采を送っていた。
 その渡洋爆撃、重慶爆撃という言葉は、いまでもぼくの記憶に鮮明に残っている。
日中戦争に旧日本軍が中国・重慶市を空爆した「重慶大爆撃」で肉親を失うなどした被害者が、日本政府に損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。(中略)重慶大爆撃は、旧日本軍が1938~43年、要衝の重慶に首都を移した蒋介石政権を狙い、航空機で繰り返し焼夷(しょうい)弾などを投下、多数の市民が死傷したとされる。(中日新聞 2006年3月6日)





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