第9部 技能者養成所(7)

2008年02月27日 15:40

 英語教師と月1回の洋画鑑賞

  英語教師の計らいで毎月1回、学校から映画鑑賞に出かけた。
 最低の賃金ながら給料は貰えたから、入場料は各自の負担である。
 映画は午後からと決まっていたが、授業は午後4時まである。
 だから、英語以外の授業を犠牲にしなければならない。
 学校側には、どうやって許可を得ていたのだろう。
 映画は洋画に限られていたから、英語学習の一環という名目でもつけていたのだろうか。
  後年、担任の教師から聞いた話によると、校長らは生徒を映画に連れて行く英語教師の行動を、あまり好ましく思っていなかったという。
 そのせいだろう、楽しい映画鑑賞も前期だけで、後期に入るとなくなった。
 映画館に出かける前に、教室で英語教師から一通りの映画解説があった。
 きょう観にいく、アメリカ映画『哀愁』の原題は『ウォータールー橋』。
 それを邦訳では“哀愁”としている。
 原題に比べ、こちらの邦題の方がはるかに素晴らしい。
 日本人訳者の訳が、いかに優れているかなどを力説した。
 その時は、そんなものかと思う程度だったが、『哀愁』の甘美な悲恋物語に橋の題名では、ちょっと素っ気ない気がするのも確かだ。 
(写真は『世界映画名作全史―戦後編―』猪俣勝人著、現代教養文庫)

 イタリア映画の『自転車泥棒』(監督ヴィットリオ・デ・シーカ)では、主演の男優(ランベルトー・マッジョラーニ)は映画にはまったく素人の機械工で、撮影を終えると映画で演じた主人公と同じように失業者になった、といったエピソードも付け加えた。
 ソ連の『シベリア物語』は、はじめて見るカラー映画だった。
 そのほか『心の旅路』や『ジキル博士とハイド氏』なども。
 『ジキル博士』では、イギリスのロンドンにハイドパークという公園のあることを知った。
 いくつか観賞した映画の中で、一番心に残っているのは『哀愁』である。
 ストーリーは、1914年の第一次大戦時、英軍陸軍大尉のローイ・クローニン(ロバート・テイラー)と、バレー・ダンサーのマイラ・レスター(ヴィヴィアン・リー)の2人が、ウォータールー橋で偶然出会ったのが奇縁だ。
 だが、ローイは彼女と結婚の約束するが間に合わないまま戦地へ。
 2人はその後再会するが、運命のいたずらが待ち受けていた。
 マイラはこの奇縁の橋でトラックにはねられ、はかない一生を終えるのだ。
 陸軍大佐に昇進した主人公のローイが、ウォータールー橋の欄干に寄り添い、ヒロインのマイラとの出会いから、事故死までの深い思い出に浸るのである。
 思い出のシーンの中に、ローイとマイラの2人が、ナイト・クラブで時を過ごす場面があった。
 2人がラスト・ダンスを踊っていると、流れてきたのが「蛍の光」のメロディー。
 わたしは、この曲を国産品だと信じていたから、同じ曲がイギリスにもあるのかと不思議な気持ちにとらわれた。
 これがスコットランドの代表的な民謡であることを知らなかった。

 戦地に向かったローイの名前が新聞の戦死者公報欄に載る。
 それは誤報で、マイラは戦死したと思っていたローイと再会する。
 これから幸福な結婚生活が目の前に開けた矢先に、彼女は置手紙を残して彼の元を去る。
 そして、ウォータールー橋で交通事故で無残な一生をおわる。
 ところが、わたしにはマイラがローイの元を去った理由がよく理解できなかった。
 その疑問を木型工のYにぶつけてみた。
 すると、「それは君の想像にまかすよ」、大人びた言葉で軽くいなされてしまった。
 ローイの出征後、マイラはバレー団をクビになり、病に倒れ金もなく、友人と2人、生活に窮して兵隊相手の夜の女に身を落としている。
 今の映画と違って、こうした場面はさりげなく、上品に表現されているので、人間の営みにうといわたしには想像力がうまく働かないのだ。
 この映画によって、自分が無知で、人生の機微に鈍感な人間であることを悟った。
(自転車泥棒と青い山脈の写真は『昭和2万日の全記録』講談社)

 この年の夏、邦画では『青い山脈』が大ヒットした。
 上の写真のキャプションには、『青い山脈』のロードショー前売券を求めて、東京有楽町スパル座の前に長い列ができていた、と伝えている。
 その翌年には、同じ石坂洋次郎原作の『山の彼方に』(第1部・林檎の頬 第2部・魚の接吻)が上映された。
 出演者は、池辺良、堀雄二、若山セツ子、角梨枝子など。
 おぼろげな記憶でストーリーをたどると、
 地方の旧制中学校で1年生が予科練帰りの上級生に、毎日、理不尽な仕打ちを受け、いじめられている。
 そのひ弱な1年生たちが、「小さな蟻も団結し、集団の力で立ち向かえば、強いライオンさえ負かすことができる」という“イソップの話”(?)を聞いて奮い立つ。
 小さな1年生たちが、川辺で予科練帰りを集団で迎え撃ち、相手をさんざんにやっつける。
 ざっとそのようなストーリーだった。
 こちらも2部作で、主題歌「山の彼方に」も藤山一郎が歌っている。
 だが、『青い山脈』ほどの人気はなく、評判もいまひとつのようだった。
 この映画のリメーク版が出たという話も聞いたことがない。
 だが、わたしはこの映画に共感を覚えた記憶がある。
 同じような境遇を味わっていたので、身につまされるものがあったからであろう。


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