第9部 技能者養成所(3)

2008年01月30日 20:44

 鉄道車両工学の記憶から

  養成工の専門科目に「機構学」、「機械工作概論」、「材料学」、「製図」などがあったが、興味をもてたのは「鉄道車輌工学」ぐらいだった。
 この講義の中で、いまもおぼろげに記憶に残っている事柄がいくつかある。
 最近の文献を参考に、遠い昔の記憶を補強あるいは補填(ほてん)しながら、ここでいくつか列挙してみたい。

 [狭軌(きょうき)とSLの限界、EL、DL化の推進] 鉄道車両工学の最初の講義で、「わが国の蒸気機関車(Steam Locomotive)は、レールの幅がせまい狭軌(きょうき)の鉄道では、すでに世界最高のレベルに達している」と教わった記憶がある。
 
 <注記1> 左右のレール間隔をトラックゲージ(軌間、略してゲージ)と呼ぶ。
 1435mmのゲージをスタンダードゲージ(標準軌)、これより広いゲージをブロードゲージ(広軌)、標準軌より狭いゲージをナローゲージ(狭軌)と呼ぶ。
 在来線のゲージは狭軌で1067mm、新幹線は標準軌の1435mmである。


 SLの速度性能は動輪の直径に左右されるが、その動輪の径はゲージにほぼ比例する。
 また、車両の大きさも車両限界やゲージの寸法などで制限される。
 
<注記2> 車両の断面は車両限界で定められ、トンネルや橋梁の大きさなどで、寸法上の制約がある。

 こうした線路条件の制約があるわが国では、SLのスピードアップや輸送力の向上はこれ以上望めない。
 今後はSLに代わって、動輪の軸数を増やすことで出力や牽引力を強化できる電気機関車(Electric Locomotive)や、ディーゼル機関車(Diesel Locomotive)の導入が進められる、ということだった。

  [わが国史上最大の生産数を誇る“D51”] “デゴイチ”の愛称で親しまれる貨物用の蒸気機関車D51は、わが国でもっとも評価の高いSLである。
 専門家の多くは、わが国のSLで優れた形式を選ぶとしたら、総合的な条件からD51を挙げるという。
 <注記3> D51の後に誕生した形式のC57・58・59・D52と戦後のC61・62・E10などの設計の基本は、すべてD51と同一である。

 それを立証するのがD51形式の生産両数だ。
 1936年(昭和11年)から1945(昭和20)年の9年間に1115両が製造された。
国産の標準形SL機関車としてD51は、単一形式の機関車としては、わが国の史上最大の生産数を誇る。
 また、製造所が民間工場5社、国鉄工場8の計13カ所というのも記録的だという。
(右表参照『決定版 日本の蒸気機関車』宮澤孝一著、講談社より)
 

 なお、1948(昭和23)年に作られたC62型は、国内で最大、最強の蒸気機関車となったと評価されている。
[動輪の軸数はアルファベットで、貨車の大きさは“ムラサキ”の順] SLの形式名は動輪の軸の数を示す記号(アルファベット)と2桁の数字で表される。
 ただし、DLとELは2番目の英文字が軸数を表す。
 〔例〕C62は動輪の軸数が3、D51は軸数4を表す。DE50は5、EF75は6という具合である。
 
<注記4> 1番目の英文字Dはディーゼル機関車、2番目のEが動輪軸数。同じくEは電気機関車、Fが動輪軸数を表す。

 機関車の速度は動輪の大きさで決まる。大きければ大きいほど速度が出る。
 一般的に旅客用の機関車は速度を優先するから、動輪の直径を大きくする(C62は1,750mm)。 
 動輪を大型化すると動輪の数を減らさない限り、車体の長さに収まりきらなくなる。
 したがって、旅客列車用の「C形式」は3軸の大きな動輪でスピードは出せるが、力が出ない。
 一方、貨物用の「D形式」は牽引力が優先であるから動輪の径を小さくして(D51は1,400mm)動輪を増やす。動輪の軸数を増やすことで出力や牽引力を強化できる。
 
 記号といえば、貨車の大きさは「ムラサキ」の順だから覚えやすい。
 例えば、貨車の横腹に白い字で「トキ」と書かれていたら、“ト”は無蓋(むがい)車で積載量は“キ”だから25?以上。「ワム」は有蓋車で積載量が14~16?
 [動輪の空転を防止する「砂装まき装置」] 奇妙なことを覚えている。砂箱の砂まき装置のことである。
 雨降りなどに、動輪の空転や制動時の滑走を防止するため砂箱から線路上に砂をまく。このような原始的な方法が採用されていることに驚きを感じたからだろう。
 砂まき装置は、砂タンクの砂を必要に応じて砂管を通して動輪の前側のレールに砂をまき、動輪の粘着性を増すようになっている。
 
 

では、現在の砂箱はどうなっているのか。
 1両で車両編成全体を牽引力しなければならぬSLに比べ、ELは動力を分散しているので砂まきは必要としない。
  しかし、時速300??を超える速度では雨降りの時などに、粘着係数を確保する必要があるそうだ。
 そのため現代版砂まきでは、直径0.3?のアルミナの粒を毎分30?程度、高速ノズルで車輪・レール間の接触直前のレール上に噴射するようになっているとか。

【参考・引用文献】
『日本の鉄道史セミナー』久保田博著(グランプリ出版)
『鉄道車両メカニズム図鑑』伊原一夫著(グランプリ出版)
『決定版 日本の蒸気機関車』宮澤孝一著(講談社)
『【超図説】鉄道車両を知りつくす』川辺謙一著(学習研究社)
『日本鉄道史―技術と人間―』原田勝正著(刀水書房)
『鉄のほそ道』石本祐吉著(アグネス技術センター)
『新幹線をつくった男 島秀雄物語』高橋団吉著(小学館)
『鉄道メカ博士』川辺芭蕉著(自由国民社)



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