第8部 開墾と山の暮らし(3)

2007年11月14日 16:30

 尾道遊山で終列車に遅れ、ベンチで一夜を明かす

 昭和23年、中3の夏休みは、たき木にする薪(まき)の出荷に精を出した。
 盆休みに広島へ遊びに行く汽車賃をねん出するためである。
 山では大人たちも、盆と正月の3が日は仕事を休んだ。
 広島への物見遊山は、中学生3人の仲間が学校の帰りの道々で決めたことである。
 前の年の盆休みは尾道だったので、もっと大きな都市に行こうとなったからだ。
 前年の尾道では、終列車に乗り遅れるという失態をしでかしている。
 メンバーは今回と同じ、梶浦、川上、わたしの中学生3人と、川上の兄を加えた4人だった。
 川上兄は、わたしより年上で村の学校へは通っていなかったが、年齢が近かったこともあって仲間に加わった。
 「清兵衛のゐる町は商業地で船つき場で、市にはなって居たが、割りに小さな土地で二十分歩けば細長い市のその長い方が通りぬけられる位であった」(志賀直哉の『清兵衛と瓢箪』)
 尾道の町は、この小説にあるように、海岸沿いに細長く連なった街だった。
 この狭い町のどこをどうほっつき回ったか覚えていないが、夕方近くになって映画館に入ったのが、そもそも終列車に遅れるもとだった。
 映画館の中はぎっしり満員で、めいめいが立ち見しているうちに離れ離れになってしまった。 
 映画がはね外にでると、川上だけいなかった。
 彼は館内の時計を見ていて、終列車に間に合うよう映画館を出たらしい。
 梶浦と川上兄とわたしたち3人は、終列車の時刻のことなどわすれて、最後まで見ていたのである。(右の写真は『岩波写真文庫<広島県>』岩波書店)
 家に帰るすべをなくした3人は、尾道駅だったか、四国・今治への連絡船が着く港の待合室だったか忘れたが、そこのベンチに横になり一夜を明かした。  浮浪児さながらの3人だが、関係者とか誰かに追い立てられるということはなかった。
なんといっても3人一緒だったから心強かった。
最終列車に間に合った川上の方は、本郷駅を降りると、そこから9?の夜道を、1人とぼとぼ歩いて帰っている。
北方村の集落を過ぎ、真っ暗な山の夜道に入ると、よほど恐ろしかったのだろう。
父親たちは息子の帰りが遅いので心配になり、カンテラを手に手に山を下っていると、川上が泣き声をあげながら上ってくるのに出会ったそうだ。

 稼いだ薪代では汽車賃不足

 松林の中に住んでいるのだから薪の用材は豊富だった。
 ただ、松の木の伐採には石油が必需品だった。
 村有林に越してから夜の照明器具は、小皿の灯心から石油ランプに昇格していたが、石油を節約するため、めったに使うことはなかった。
 森林伐採が本職の杣夫(そまふ)たちの鋸(のこぎり)は、どうか知らないが、わたしたちの場合、松の木に鋸を入れると、じょじょに松脂がノコの刃に粘りついて、にっちもさっちも動かなくなるのである。
 それで、松の木を伐るときは、いつも石油を入れた小ビンを腰にぶら下げていた。
 小ビンの口は松葉を束ねて栓にしてあり、ノコの面にビンを傾けると、石油がその松葉を伝ってノコを湿し、松脂が粘りつくのを防いでくれるのだ。
 石油の代わりに水でもよさそうなものだが、そうはいかなかった。
松の木の伐採にかかる前に、笹や雑木などを下刈りする面倒な作業が欠かせなかった。
山の斜面での伐採は、まず谷側からノコを入れる。
 あるていどノコが入ると、木の重みが谷側にかかってくるので、鋸が切り口で挟まれたような格好になり、引きにくくなる。
 今度は反対の山側に回ってノコを入れていくと、木は谷側に自然に倒れていった。
 横倒しになった木の枝をナタで打ちはらうと、次は丸太になった原木を規定の長 さに輪切りにし、切り株の上に立てて斧(おの)で割っていった。
割られた薪は、規定の大きさの輪に束ね、縄で縛ると完成である。
出来上がった薪束は、手製の荷車に満載し、村の農協まで運んだ。
夏休みに入ってから盆まで、そうやって稼いだ薪代だけれど、国鉄本郷駅から広島駅までの往復の汽車賃にも足りなかった。
その不足分と小遣いは母が出してくれた。
なお、昭和23年7月18日に国鉄の新運賃は、前年の2.55倍の大幅値上げとなっている。
汽車賃不足は、この影響が多少あったかもしれない。
ちなみに、昭和23年の汽車賃を昭和37年の運賃表から逆算(昭和23年の2.87倍)してみると、本郷、広島間(61.9?)は片道63円、本郷、尾道間(21?)は片道24円くらいになる。
昭和37年の運賃表では、本郷、広島間は片道180円、本郷、尾道間は同60円である。
(石油ランプ『昭和2万日の全記録』講談社。鋸による伐採『岩波写真文庫<村の森林>』岩波書店)



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